水底飛行場

試行中……

2023年9月1日 806文字 『揺れ』

 夜、横になって過ごしていると、部屋の扉や小物たちが不自然に揺れた。こここ、かたたっ、と足踏みして、揺れはすぐに収まった。私はTwitterのアプリから特務機関ネルフのアカウントを検索した。思ったとおり、自分の居住地域に揺れが観測されていた。画像に、震度2を表すマーク。隣県の海の方で本震があり、こちらまで揺れが届いたとのことだった。揺れが地震だったこと、数値で見てもそこまで大きくないことを確認できたので、よし大丈夫、とツイッターを閉じた。

 それから数日経って、平日の昼間、家で作業をしていると、扉や窓がここここん、ここここん、と揺れた。扉や窓というか、家全体が。少し間があいて、ここここん、ここここん、と再度揺れる。私は例によってTwitterを開いてネルフを見に行く。しかし、タイムラインに地震の情報は見当たらない。最新の投稿は遠くの地域の画像と、大雨情報だ。私は何度かタイムラインを更新したが、いくら下に引いても新しい投稿は現れなかった。

 作業にもどってしばらくして、そういえば、と思い出した。近所の大きな家が解体工事をしているのだった。蔵を備えた日本家屋の豪邸で、道路に面したところに忍術学園のような木造の門が立っている。私の家と最寄り駅を繋ぐ道の途中にあるので、ここ数日はバイトの行き帰りに、どれくらい解体されているのかなんとなく眺めていた。工事車両を入れるためと思うが、まず、門の横に伸びる真っ白な壁の一部が壊されて、そこから工事の様子が丸見えになっていた。庭に置いてあったらしい石灯籠が撤去されて、家の壁が剝がされるとシルバニアファミリーみたいになり、昨日は家そのものが解体されていた。

 このクソ暑いのに大変だなあとかなんとかぼんやり思っていたので、ここ数日は雨や曇りの影響で涼しくなってよかったなと思う。でもそれは家で優雅に過ごせる人間の浅い想像であって、実際、暑いのと雨が降るのとだったら、工事の人はどちらが嫌なのだろうか。